2005/8/6

「NAKAMURA 25」、セルティックパークで存在感を示す
〜中村俊輔、スコットランドデビュー戦〜


 8月6日、中村俊輔がダンディー・ユナイテッド戦でセルティックデビューを果たしました。
 チーム合流が8月1日からということで連携面で不安はありましたが、その辺りを含め試合を見てみました。

 まず驚かされたのは、いきなりヘディングシュートで相手ゴールを襲ったことです。さすがにヘディングが得意ではない感じがありありでしたが、サイドにボールをさばいてゴール前へ飛び出す姿勢は、これまで見られなかった姿です。セルティックパークのファンたちの心を、ゲーム開始から1分も経たない内にわしづかみにしてしまいました。
 中村の特徴は、何と言ってもその左足から繰り出されるパス。合流から2週間でどの程度馴染んでいるか少し心配でしたが、そんな心配は何の意味もありませんでした。違和感なくチームの流れに乗ってプレーしていました。

 この日の中村は、どちらかと言えばボールを簡単にさばき、無理せず妥当なプレーに終始していた印象を受けましたが、早くチームに馴染むためにチームメイトと呼吸を確かめていたのではないかと思います。周りを使えたということは、周りがよく見えていたから。欲を出すのはもっと慣れてからでいいでしょう。
 それに、左足でなぜその方向にパスが出せる?と思わせるパスを見せ、その度にセルティックファンから拍手が起こりました。前半18分、ズラウスキーへの絶妙なループパスも見せ、そのセンスは十分に証明できました。
 後半はややボールに触る回数が減りましたが、ペナルティエリア内でのドリブルから右足で強烈なシュートを打ったり、ループシュートを放つなど、存在感を十分に示してくれました。FKは…せっかくだから、入れてほしかったですね(笑)

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 ただ、いくつか課題もあります。
 まず、FWとの息が合っていません。特に、チームの大黒柱であるジョン・ハートソンとの呼吸を合わせるにはまだ時間が必要のようです。ハートソンがボールを欲しいタイミング・場所・ボールの質がまだつかめていません。
 このハートソンは、ゴール前でパスを待っている典型的なセンターフォワードです。ポストプレーが巧く、ボールタッチもいい。執拗なマークをされていてもフィニッシュまで持ち込める強引さもあります。ハートソンはペナルティエリア付近で絶対的な存在感がある、中村がこれまでプレーしたことのないタイプのセンターフォワードなのです。
 これまで中村がプレーしてきたFWは、前線を広範囲で動き回り、DFの裏を取るタイプの選手です。日本にはこのタイプの選手はいませんし、イタリアにもいませんでした。中村には、相手選手が密集するエリアでパスを待つハートソンにより正確なパスを出すことが、要求されます。
 ただ、ピンポイントパスは中村が得意とするところ。呼吸が合ってくれば、とんでもないホットラインになる可能性を秘めています。

 次の課題は、中村がセルティックの中盤でどういう存在になるべきかということです。
 セルティックの中盤にはタレントが揃っています。スティリアン・ペトロフ(ブルガリア代表)、アラン・トンプソン(左足のスペシャリスト)、ニール・レノン(北アイルランド代表。マンチェスター・ユナイテッドでの「ロイ・キーン」のような存在)と、ここ数シーズン、セルティックを引っ張ってきたクオリティの高いMFがいます。
 レノンは中村の入団が決まった後、彼の加入を好意的に受け止め、サポートを約束していました。しかし、同じく左足を武器にするアラン・トンプソンにとっては、もしかすると目の上のタンコブ(そうでないことを祈るばかり)。ポジションが重なることもあって、どう共存していくか、ストラカン監督の腕の見せ所になるでしょう。

 そして、最後はフィジカルコンタクト。この日何度も見られましたが、ボールを持っている時、相手からの執拗なマークを受け、ボールを失う場面がありました。その度に「ファールじゃないの?」というジェスチャーをしていましたが、強引とも思えるフィジカルコンタクトも、フェアであれば笛が吹かれないのがスコットランド…いや、プレミアリーグも含め、イギリスのフットボールの特徴です。これは実戦を重ねていきながら経験し、修正していくしかありません。

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 色々書いてみましたが、挑戦は始まったばかりです。移籍が決定し、入団発表が行われたのが7月29日。どの程度英語ができるか分かりませんが、短期間でこれだけ合わせてきたことの方が驚きです。
 こういう問題は、時間が経てば解決するはずです。中村のパスセンスは、時が経てばチームメイトに伝わるはずです。それを拒否する選手がいたとしても、認めさせるだけの説得力を持っています。中村俊輔が中村俊輔である限り、セルティックを支えるファンにはそれが伝わるはずです。

 スコットランド・プレミアリーグは日本では馴染みがありませんが(個人的には好きでした、レンジャースが 苦笑)、この試合を見て、このリーグを選択したのは正解だったような気がしました。
 1対1のフィジカルコンタクトの強さは、以前からの課題でした。しかし、マンマークすることが少ないこのリーグなら、中盤でフリーになり、これまで以上のラストパスを出せる可能性があります。
 接触プレーでの強さを身に付けながら、中盤での「魅せるプレー」をセリエAよりも見せてくれるはずです。そして、これまで以上にゴールを決めるチャンスも…実際、この試合でも積極的にゴールを狙っていましたし。

 8月20日には、レンジャースとの「オールドファーム」が控えています。世界屈指のダービーマッチで「NAKAMURA 25」という背番号が強烈に輝けるのを楽しみにしましょう。