2006/6/20
大会を制するポイントは…これだな、きっと。
〜グループリーグ第2戦を終えて(グループD、E)〜

 グループリーグ第2戦を見た感想を2回に分けて書こうと思います。
 とりあえず、書いてなかったグループDの一部からスタート。

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 グループDのポルトガルは、勝ちに来たイランをあっさり…とは言わないまでも、がっぷり四つに組んでしっかり寄り切った、まさに横綱相撲とも呼べる堂々とした戦いぶりで決勝トーナメント進出を決めました。
 デコが先発に復帰し、マニシェ、コスティーニャのレギュラー組が復帰。「モウリーニョポルトの象徴」で中盤を固めたベストメンバーで本気モードの戦いが始まったわけですが、さすが絶妙のバランス! 第1戦と比べて安定感が増しました。

 イランも悪くないんですけどね。前半0-0で折り返し、何度もゴール前に迫ったのですから。
 しかし、デコの先制点は、デコを警戒し過ぎて様子を見てしまったイランの選手たちの隙間をうまく抜けていったシュートでした。もし、デコにパスがわたる前に誰かが前へ出てきてディフェンスしようとしていたら…シュートコースが限定され、あれほど見事なシュートはゴールの枠内には跳ばなかったことでしょう。ちょっとでも隙を見せたり、消極的な姿勢が出てしまうとつけ込まれてしまう典型的なパターンですね。

 実力差のある試合では、格下のチームがボールにプレッシャーをかけず、下がってディフェンスしようとする場面がよくあります。1対1の場面でも、相手にボールが入って、さらに前を向いた状態になるまで待ってから守備を始めようとしたり。日本なんかいい例ですねー(笑)
 でも、それは守備のセオリーではありません。相手にボールがわたってからディフェンスしていては遅いのです。でも、ボールを取りに行ってかわされるのが恐いために、前に出てこられない。自分のマークへプレッシャーをかけられない。これがワールドカップにおける強豪とそうでないチームの差になってしまうんですね。
 イランは今大会もその差を埋める勇気がなかった…いや、勇気は持っていましたが、足りなかったですね。アジアで強くても、ワールドカップでは勝てない。そんなイランは、今回もグループリーグで姿を消します。

 それにしても、クリスティアーノ・ロナウドの余裕はなんでしょう? 対戦相手、自分のマークを完全に見下してるかのような自信溢れたプレーぶり! マンチェスター・ユナイテッドでのプレーよりも確実にいいなぁ(^_^;)ゝ ダメだ、アイツ!(笑)
 今回のポルトガルは、「巧いけど勝てないチーム」から「巧くて勝てるチーム」へと生まれ変わってます。決勝トーナメントでの活躍が期待できるチームじゃないでしょうか?

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 「死のグループ」グループEは、とんでもないことになりました。
 第1戦はイタリア、チェコが順当に勝利を収めたわけですが、第2戦はガーナはチェコを破り、アメリカはイタリアとドローに持ち込む、いや、「ドローに終わってしまった」試合となりました。
 これで勝ち点上はどのチームにもチャンスがあり、第3戦の結果次第でどうにでもなるという、見る立場にはこの上なくスリリングな、プレーする立場にかなり迷惑な状況となってしまいました。

 前後しますが、まず<イタリア×アメリカ>。
 アメリカはイタリアをしっかりスカウティングし、完全に勝ちに来てました。それは、イタリアののんびりとしたリズムに「ノー!」を突きつけ、序盤から無謀とも呼べるハイペースでプレッシャーをかけ続けたことからよく分かります。
 特に、ピルロやトッティへのプレッシャーは凄かったですね。DFラインの前、しかも汚れ役を2人置いた布陣にも関わらず、ピルロがフリーでパスを出さない状況というのは、前線からのプレッシャーが激しかった証拠ですね。
 そしてパスを出されても、パスの受け手が自分のリズムでプレーしないよう、ボールへのアプローチは続けました。サボらず、しかも試合が終わるまで。スゴい体力と集中力です。それに、チャンスがあればゴールを狙おうとする姿勢。感服しました。

 でもね、だからこそここで書いたように、初戦のチェコ戦が重要だったのです! こんなに素晴らしいチームを作っておきながら、初戦の寝ぼけたような試合はないだろう…と。

 イタリアは引き分けでラッキーだったと思います。フルコートディフェンスでかく乱され、退場者まで出し、相手がお付き合いして1人少ない10対9の状況になってからもチャンスは作れず。こんなゲーム内容で勝ち点1を拾えたのはラッキーですよ、どう考えても。
 最終戦はチェコとの対戦。チェコは引き分けでは決勝トーナメントに進めない可能性がありますから、勝ちに来るでしょう。イタリアは引き分けでもOK。
 でも、ガーナがいるか…。

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 さて、今回のワールドカップを占う上で、<ガーナ×チェコ>は非常に興味深い試合でした。

 前半3分にパスを不用意に足でカットしようとして触れず、ガーナが先制点を入れるという、ラッキーパンチと言いますか、チェコのDFの油断と言いますか、その得点によって、チェコは完全にペースを乱しました。

 チェコの良さは、速い攻撃もできるのに、相手の様子を見ながらいなしたり、突然スピードアップしてゴール前へ迫ったりという変幻自在の攻撃にあります。しかし、そんなチェコのお家芸は先制されてから全く出せず、ただひたすらゴールへの最短ルートを目指そうというイケイケ状態に。これでは、ガーナが守りやすいに決まってます。

 ネドベドがボールを持った時だけを比較してもよく分かると思います。
 アメリカ戦ではボールを持っていない時に周りをよく見て、ボールを持った時には次のビジョンがあってプレーしていたのに対し、ガーナ戦はボールを持った瞬間、すぐに前を向いてドリブルに入り、前線の選手を探してパスを出すケースが増えました。つまり、ボールをもらってから次のプレーを考えていたわけです。
 もちろんネドベドのドリブルは素晴らしいし、その突破力は驚異的です。シュートコースを空けた瞬間、ゴールを決められるだけの力は持っています。しかし、ガーナの選手にはネドベドの突破を許さないスピードがありました。そして、ネドベドが次にやろうとすることも予測できたのです(もちろん、その予測をもとに守り切るのは至難の業なんですが…)。

 チェコが強豪であることは、サッカーファンなら誰でも知っています。しかし、彼らがこれまでワールドカップに出場できなかった理由は、あまり語られてこなかった。
 結局こういうところなんですよ。先制点されたり得点が取れないと攻撃のリズムが狂ってしまう。その弱点が、ガーナ戦で露呈してしまったわけです。

 ただ、それだけが敗因ではありません。チェコの焦りに追い討ちをかけたのは、高温多湿なドイツの気候です。
 気付いたのは前半10分過ぎくらいから。画面でアップになったチェコの選手たちを見ると、みんなえらく汗をかいていました。確かに攻守の切り替えが速くオーバーペースだと思いましたが、「試合が始まって10分だよな…こんなに汗が出るってどうなの?」と。
 で、FIFAのサイトを見たら23度、湿度70数%。湿度、結構高いですよね。

 これはかなり厄介です。だいたい、ヨーロッパのリーグが8、9月スタート、5月終了である理由は、「夏はフットボールに向いていない」から。おそらくヨーロッパのチームの多くは、ここまで暑いと思っていなかったことでしょう。
 ワールドカップが始まってから、毎日のように友達と試合を見ながら、ああだこうだとメールしてるんですが(笑)、前半を見ながら「焦り過ぎ」「湿度が高い」「汗のかき方が気になる」と書いてました。
 ホント思った通りになりましたね。そして、退場者を出して…。せめてもの救いは、0-2だったことです。それ以上点差がついたら、得失点でグループリーグ敗退なんてことにもなりかねませんから。

 正直、「前半は0-1でもいい」と思える選手たちなら、最低でも引き分けには持ち込めたでしょう。試合は90分。序盤戦からガンガン飛ばしていたら体力が持たないと、冷静さにゲームをコントロールできていたら…。しかも、そう考えられる選手がいるチームであるだけに悔やまれます。

 しかし、出場チームで、高温多湿な気候を考えてコンディションを作ってきた、もしくは作っているチームはあるんでしょうか? 少なくともウクライナは失敗した例ですし、チェコはゲームプランを間違えました。
 このワールドカップで勝ち進むには、夏を迎えるドイツの高温多湿な気候をいかに制するか。これに尽きると思います。サッカーの内容もですが、フィジカルコーチの手腕が試される大会でもある。そんな気がしてなりません。