2006/8/21
ジダンが落とした爆弾
〜1ヶ月の間、更新しなかった理由〜

 原稿を書いては考え、書いては考えしてる間に、前回の更新から1ヶ月も経っていました。
 たまにあることとは言え、今回は忙しかったという理由だけではありません。

 ワールドカップ決勝の直後、ボクは長文ものを3つほど書いていました。
 もちろん決勝についてなのですが、今読み返しても怒りばかりが表に出ていて、出さなくて良かったなと思っています。
 ただ、ヨーロッパで06-07シーズンが始まった8月、新たな気分でサッカーへ向き合いたいので、語弊を恐れず一部を掲載することにしました。

 これを非難されようが何されようが、別に構いません。
 それくらいの衝撃だったのです。
 自分の人生をサッカーに捧げてきた者として。
 サッカー好きから結局指導の現場に関わりながら、もう戻れないところまで来てしまった者として。

*********************************

 ワールドカップ決勝から1週間が経ちました。
 忙しいことを理由にして更新をしないことは多々あるのですが、正直なところ、どこにスポットを当てるべきか迷っていました。

 内容は今大会最高の出来でフランスがリードしていたにも関わらず、最終的にはイタリアのPK勝ち。大会を通じてという意味ではイタリアほど安定した戦い方をしていたチームはないわけで、その点から言えば、イタリアの優勝は順当だと思います。
 しかし、実に釈然としない気持ちだけが残り続けました。録画した映像も見ないでしょう、きっと。
 理由は簡単。不愉快だからです。

 不愉快の原因は、もちろんジダンの頭突きにありますが、本当の原因はその後のインタビューにあります。
 正直頭に来ました。そして、ジダンの人間性を疑ったというか、彼の発言でサッカーに未来はないんじゃないかくらいの思いを持った次第です。

 家族のことを言われたら、そりゃ誰だって怒ります。
 お姉さんだか妹さんだか知りませんが、それをよく知った上でメディアで言われているような発言をしたならば、マテラッツィは確実に人間性が疑われる。少なくとも、人間としてクズです。
 ただ、ここで「お前の母さん出べそ」(表現は柔らかいですけど)と言ったところで、マテラッツィがジダンの親のことを知っているとは思えない。試合を通じてずっと言われたとしても、どう考えても大人のケンカではない。

 今回の一件でもっと始末が悪かったのは、歴史上に残るスーパースターが、政治的にではないにしろ、自分を正当化するために後日、ああいった形でメディアへ登場し、(謝ったとはいえ)明らかな暴力行為を「後悔していない」と発言したことです。
 ジダンは「ジダン」という存在の大きさを利用して、あの暴力を正当化した。少なくとも、多くの人がそれを指示した。スターになれば、反則行為もエクスキューズできてしまう。そんな流れを助長しかねない行為(=メディアでのインタビューに応じ、発言したこと)です。
 ボクはジダンがあの暴力を「後悔はない」と言った時点で、サッカーというスポーツへのテロ行為だと思っています。やった者勝ちですよ、やった者勝ち。

 それまでの試合とは打って変わって、決勝でのジダンは素晴らしかったです。「こんな力が残っていたのか」と目を丸くしましたし、そのプレーがおそらくイタリアの選手たちへの動揺、そしてフランスペースでの決勝戦というにつながったと思います。
 しかし、90分のフルゲーム、プラス30分の延長戦で、思ったように動けなくなった。溢れるイメージと動かない体…結局のところ、カチンときた理由は、思ったようにプレーできなくなったための苛立ちと、決められるのに決められないフラストレーションにおいて他にないと思います。

 延長前半にはドフリーのヘディングシュートをブッフォンにはじかれて決勝点を決められなかったジダン。1998年、スタッド・ド・フランスでの決勝戦、珍しくヘディングシュートを決めたジダンが、前大会優勝国ブラジルの息の根を止めました。しかし、今回は同じような場面で決められなかった。なんとも皮肉です。

 …色々考えていくと、胸くそ悪くなってきます。
 ボクはサッカーが好きだし、これからもその気持ちは変わらない…と思っていたけど、指導の現場に落とされた「報復という名の自己主張」という爆弾を落とされた今、気持ちは揺らぎ始めています。
 どんなことをしたって、現場の一指導者の発言が、サッカー界における「ジダン」というブランドに勝てるわけがない。
 正当な理由があれば暴力行為(少なくとも、あれは過度の暴力行為であり、何があろうと)さえも許されるルールを作って、「挑発行為には報復行為を」と高らかに叫び、サッカー界を変えていけばいい。ジダンよ、先頭に立て、と。勝手にやってくれと。

 ………こんなことはあり得ないんですけどね。別にジダンが嫌いなわけではなく、むしろ魅了されてきた一ファンとして、あまりにも安易な行動に幻滅したというのが本音です。
 正直、今回の一件で引いてしまいました。サッカーに対して懐疑的になってきています。そして、もうサッカーはいいかな、と。
 ボクが現場だけでなく、ファンをやめてしまったとしても、サッカー界は何のダメージもなく、これまで通りそこにあり続けるわけです。何の心配もない。
 結局一匹のアリは無力であり、積み上げてきたものは1個の爆弾で吹っ飛ばされてしまう。
 それが地球の歴史を作ってきたし、これからも作っていくわけです。

*********************************

 あの決勝が終わってから、サッカー関係の仕事やら、チームの夏季合宿やらで、興味自体なくなるような最悪な状況は免れました…いや、そんなことを考える暇がなかったというべきか(笑)
 あの一件は、グラウンドへ影響することは(今のところ)なく…いや、なんか審判への意義は多い気はするなぁ…(-_-;

 グラウンドにいると、「やっぱりここからは逃れられないなぁ」なんて思ったりして。
 8月に入ってとんでもなく蒸し暑くなり、すっかり日焼けで得体が知れなくなっている今日この頃です。