2004年11月20日午後5時過ぎ、西が丘サッカー場。
延長戦に突入した東京都Bブロック決勝【暁星高校×実践学園高校】は、10分の延長前半を終えても勝負がつかなかった。
「PK戦かな」
頭によぎった延長後半の開始直後、暁星高校のファールで実践学園高校にFKが与えられた。
実践学園陣内から放たれたFKは、ペナルティエリア付近に放物線を描きながら飛んでいった。平凡なFKだった。ボクはFKの軌跡を確認した後、クリアできるだろうと目を反らそうとした…その瞬間、ボールは相手選手の頭に当たっていた。
「あれ?」
コントロールされたと言うよりうまく当たったヘディングシュートは、GKの手をかすめ、左コーナーポスト付近に吸い込まれた。緊迫した互角の戦いを演じてきた両チームにとっては、あまりにも呆気ない幕切れだった。
暁星高校サッカー部は、全国高校サッカー選手権に9度出場しているが、第72回大会(平成5年)を最後に高校選手権のピッチには立っていない。
そして、全国大会への10枚目のキップを手にするために戻ってきた2年ぶりの西が丘。キップは目の前で売り切れた。
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暁星高校サッカー部員の多くは、外野フライが取れない。「そんなバカな」と言われるが、これは真実である。サッカー以外のスポーツは不得手という部員が最近増えた。
サッカー部の練習に、特別目新しいものはない。ウォーミングアップに始まり、パス練習、シュート練習、ミニゲームがメインだ。どの高校でも同じようなメニューに違いない。ただ、暁星高校のサッカー部員が違うのは、トレーニングを少しでもハードにするとケガ人が必ず出てくることだ。肉離れ、疲労骨折、股関節痛…
対戦相手が暁星高校のウィークポイントをあげるとすれば、「身体能力」という言葉で表現するに違いない。でも、この言葉はややニュアンスが違う。「運動センス」と「体の強さ」。そう言った方がより正確だろう。
サッカーに限ったことではないが、スポーツは残酷である。努力と比例して成績の上がる学力とは違う。個々の身体能力はトレーニングである程度まで向上するが、トレーニングによって肉体は悲鳴をあげてしまう。それが現実だ。
暁星高校のサッカー部員は、9割9分が暁星中学校サッカー部からの持ち上がりである。部員構成は、暁星小学校から上がってきた生徒か、中学受験を突破した生徒だけに限られる。
「1分」を残したのは、暁星中学校の生徒だが他のクラブチームに所属しているケースや、中学ではサッカー部に入らなかったケースがあるからだ。結局、暁星中学校に入学してきた者だけが高校サッカー部員になるという構図は変わらない。
通常、どの高校でも入試で数百人の生徒を募集する。サッカーの強豪校になると、サッカー推薦という形でセレクションが行われ、優秀・有望な生徒が入ってくる。
学校の事情によって大きく異なるが、場合によっては学費の免除や、成績面も考慮されるため、推薦枠を巡るセレクションは熾烈となる。強豪校ならずとも、運動部に力を入れている高校ならば普通の話である。
セレクションで合格できなくても、その学校でどうしてもプレーしたければ受験すればいい。もちろん入試で合格しなければならないが、合格できればその学校でプレーできる。Jリーグのユースチームは優秀な人材しか選ばないが、学校はそうではない。途中でやめてしまう生徒はいても、最初から入部を拒否する学校などない(はずだ)。
この常識は暁星高校に当てはまらない。ここでは高校入試が実施されていない。正確に言うと、数年前まで高校入試は実施されていたが、入試を実施していた当時も若干名の募集のみで、合格するのは実質10人前後。サッカー部に入りたいがために受験し合格できるのはごく稀なケースだった。高校からの戦力的な上積みがないのは、今に限ったことではない。
高校で生徒募集をしないからと言って、小学受験や中学受験の際にサッカー選手として有望な子供を入学させているわけでもない。幼稚園・小学校・中学校の入試を突破した子供だけである。入学後も、成績が極端に悪ければ部活動はできない。全ては入学テストの合否と学校の成績が決める。
以前と変わったことと言えば、サッカー部に入るために暁星中学校を受験する子供が増えたことだ。この現象は15年から20年前では考えられなかった。学生から見るサッカー部の敷居は非常に高く、外部から入り込めない独特の雰囲気があった。この変化は歓迎すべきことだ。
ただ、昨年の東京都決勝に出場した生徒の中で、中学受験で入学してきたのは3人だけというのも現実だ。中学受験組の2人は、塾に通うために小学5年生から6年生に上がる頃にはクラブをやめたそうだが、それまでは地区選抜にも選ばれる「サッカーがうまい小学生」だった。そして、あとの8人は暁星小学校でサッカー部に所属していた生徒たちだった。
中学受験する小学生は、5年生辺りから塾通いを理由にサッカーをやめてしまうことが多い。中学受験で入学し、サッカー部に入部してきた子供の話を聞いたところ、遅くとも5年生から6年生に上がる春休みにはサッカーをやめ、受験勉強に集中するようになったそうだ。
受験勉強しながらサッカーを続けられればいいのだが、理想論が通用するほど中学受験は甘くないようだ。そして、中学生になってから本格的にサッカーを始めても、高校で花開くには相当の努力を要するのもまた現実である。
ただし、暁星小学校でサッカーをしていたからと言って、必ずしもサッカーを続けるとは限らない。ましてや、高校まで続けるかと言われれば、疑問符が付く。この傾向は、15年〜20年前、暁星高校が高校選手権の常連校だった頃から変わらない。そんな時代でもポテンシャルの高い部員がサッカー部をやめてしまうことは多かった。その数は今よりも多かったかもしれない。
暁星高校サッカー部について、小学校から高校までの一貫教育による育成体制が強さに結びついていると言う人がいる。この指摘は正しいが、間違ってもいる。
暁星学園のサッカー部は、入試を突破した子供たちに支えられている。「サッカー好き」であっても「サッカー選手」になれるような子供たちが集まっているわけではない。
<続く> |
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